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中央銀行による資産市場への牽制は政治家の反発を招く、という典型的な例である。

こうした騒ぎの中で、「根拠なき熱狂」発言からちょうど一週間経った一二月一二日午前一○時。 上院のL共和党院内総務の事務所に入るG議長の姿が目撃された。
L院内総務がFRBの独立性を制限する法案を上程する、といった憶測も生まれ、市場は動揺していた。 G議長はL院内総務と約五○分間会談したあと、事務所から退出してきたが、取り巻いた記者団の質問に一言も答えず、迎えの車に乗り込んだ。
JFRB報道官(当時)は記者団の質問に対し、「私の知る限り、二人が会談した」と述べただけだった。 会談のタイミングからみて、G議長が「根拠なき熱狂」発言の釈明のため、L院内総務を訪ねたのは間違いないだろう。
一方、FRBの独立性確保を政策の一つの重要な柱としていたR・R財務長官(当時)は、三月八日にNBCテレビのインタビューで、G議長の「根拠なき熱狂」発言について、「議長は問題を提起しただけで、回答を示唆したわけではない」と言明。 株価水準について知的な議論の広がりを追求したにすぎない、と議長を弁護した。
Rの自伝(邦訳『R回顧録』日本経済新聞社)によれば、当時、彼も株式市場の過熱に関しては強い懸念を持っていた。 株価が上昇するたびに、GFRB議長、R財務副長官と話し合っていたという。
同書でRは、Gの「根拠なき熱狂」発言が株価のことを意味していたのかどうかは分からないと、ぼやかした言い方をしている。 なお、R自身は政府高官が株価の水準に言及することは適切ではないと考え、悩みながらも牽制を見送っている。
BG議長の「根拠なき熱狂」発言による問題提起の背景には、FOMC(連邦公開川市場委員会)の議論に強い影響を与えるFRB調査統計局の経済予測があった。 それは「驚異的柳な株高は、金融政策がわれわれの認識よりずっと緩和的なことを示唆している可能性がある」と蝋警戒信号を発していた。
この調査統計局の見解は緑表紙の「グリーンブック」にまとめられ、九丸六年三月一七日のFOMCに提出された。 ー○○人以上の博士号取得者を擁するFRB調査統計局は、アメリカ合衆国最高のシンクタンクである。

その分析は連邦準備制度で絶大な権威があり、そのトップの調査統計局長は、金融政章卿策局長、国際金融局長とともにFRBのバロン(大物、有力者、男爵の意)と呼ばれる。 同日のFOMCでは、当時、金融政策局長を務めていたD・C(現FRB理事)が「株高は、実質金利が非常に低く、インフレ抑制に向けて十分ではないことを示している」と指摘。
さらに、仮定の話としながらも、「もしバブルが形成されているとすれば、FOMCはそれを破裂させるべきだろうか?」と問い掛けた。 C局長は、G議長の「根拠なき熱狂」による問題提起を引き継いで、より具体的に、中央銀行はバブルを認知し、それを破裂させるべきかどうか問い掛けたわけである。
この問題意識を出発点に、その後G議長はじめFRBが一丸となって、資産価格と金融政策の関係について、探究を続けた。 これから、その調査・研究過程をG議長の発言やFOMCの資料を用いてトレースする。
当時のフェデラルファンド金利の誘導目標は、九五年二月の六%をピークに、同年の景気減速を背景に、九五年七月、一二月、そして九六年一月の三回にわたり○・二五ポイントずつ引き下げられ、五・二五%となっていた。 九六年はほぼ一年間にわたり五・二五%に据え置かれたため、景気過熱感が広がっていた。
金利据え置きの一方で、FOMCは九六年七月から金融政策の傾きを示す「バイアス」を「引き締め方向」とし、G議長の判断でいつでも利上げを決定できる態勢を整えていた。 この「引き締めバイアス」は翌九七年二月のFOMCでも継続。
G議長は同月二六日に上院銀行委員会で、「根拠なき熱狂」を直接引用し、「この問い掛けに対して、まだ満足の行く回答を得ていない」と述べた。 この議長による再度の問題提起を受けて、議員の問では「中央銀行の口先介入」という批判が再び強まった。
議員の間では、FOMCが株高を警戒して、利上げに転じるという警戒感が高まっていた。 G議長は、こうした議員の反発を受けて、九七年三月五日の下院金融委員会で、「通常の株価モデルを適用し、アナリストの企業収益見通しが正しいとすれば、株価は不当な水準ではない」と、「根拠なき熱狂」発言の修正にかかった。
しかし、議長はその一方で、「米国経済は明らかにフル稼働状態に接近している。 まだ、過熱の兆候は現れていないが、このゾーンに入れば、リスクは上振れだ。

われわれは、事態を注視する」と、実体経済の過熱化を背景に利上げの可能性を強く示唆した。 そして、九七年三月二○日の上下両院合同経済委員会の公聴会を迎える。
証言者はG議長ただ一人。 利上げを思いとどまらせようとする議員らの鋭い質問が続いた。
張り詰めた緊張を一瞬緩めたのは、ベテランのP・B上院議員(民主党)だった。 同議員は「ミステリアスなFRB議長のボディランゲージ」と題するワシントン・ポストのイラスト記事を掲げた。
そして、「議長のしぐさを観察していましたが、両手でメガネの位置を調整この議会の牽制を押しのけて、五日後に開かれたFOMCは全会一致で、フェデラルファンド金利の○・二五ポイント引き上げを決定した。 利上げは九五年二月以来、二年余ぶりのことで、フェデラルファンド金利の誘導目標は五・五%となった。
景気過熱に伴うインフレ抑制が目的だった。 株価については、資産効果による景気過熱という二次的影響を考慮したもので、株価に直接働きかけるものではなかった。
ただ、インフレ率が安定していたため、この利上げに対して、議会から強い反発が巻き起こった。 しましたね」と、笑みを浮かべながら、話し始めた。

「それはいったい何を意味するのですか?」と、いぶかるG議長に対して、B議員は「様子見の姿勢を意味します。 つまり、あなたは厄介な問題に巻き込まれないということです」と、ジョークを交えて利上げを牽制した。
さらに、同議員は、ワシントン・ポストのイラストを一つ一つ説明。 それによると、「片手腕立て伏せ」は「利下げはできない」というサイン。
G議長はすかさず、「世界広しといえども、中央銀行の総裁の中で、片手腕立て伏せができる人はいないでしょう」と、軽妙なタッチで切り返すと、委員会室は大きな笑いに包まれた。 その後も景気拡大から、労働市場の逼迫が進むなかで、九七年五月のFOMCは利上げを見送ったものの、引き締め方向のバイアスを決定。
それから二月まで、同バイアスを維持し、引きG議長の通常の議会証言は、証言開始の三○分前に冒頭の証言内容がテキストの締めへの臨戦態勢を続けた。 G議長が利上げを思いとどまったのは、生産性の向上を理由にインフレが抑制きれるため、利上げの必要はないとハト派的な見解を強めたことが大きしかも、同年夏にタイを発火点に広がったアジア金融危機がその秋には香港株式市場を直撃。
これを受けて、九七年一○月二七日のニューヨーク証券取引所の株価は暴落。 ダウエ業株三○種平均は五五四ドル二六セント(七・二%)安の七一六一ドル一五セントとなった。

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